Deracine shimaken!2

散歩とか食べ物の記事が多いブログです。日記みたいなものです。

父は忘れる

筋トレが終わって、久々に、オレの一番の座右の書を読んでいたさ。

 

その中から引用する。

 

『父は忘れる』

 

坊や、聞いておくれ。


お前は小さな手に頬をのせ、汗ばんだ額に金髪の巻き毛をくっつけて、安らかに眠っているね。
お父さんは、一人でこっそりお前の部屋にやってきた。


今しがたまで、お父さんは書斎で新聞を読んでいたが、急に、息苦しい悔恨の念に迫られた。
罪の意識にさいまれてお前のそばへ行ってきたのだ。


お父さんは考えた。

これまで私はお前にずいぶん辛くあたっていたね。
お前が学校へ行く支度をしている最中に、タオルで顔をちょっとなでただけだと言って、叱った。
靴を磨かないからと言って、叱りつけた。
また、持ち物を床の上に放り投げたと言っては、怒鳴りつけた。


今朝も食事中に小言を言った。
食べ物をこぼすとか、丸呑みにするとか、テーブルに肘をつくとか、パンにバターをつけすぎるとか言って、叱りつけた。
それから、お前は遊びに出かけるし、 お父さんは駅に行くので、一緒に家を出たが、別れる時、お前は振り返って手を振りながら、

「お父さん、行ってらっしゃい!」と言った。


すると、お父さんは、顔をしかめて、「胸を張りなさい!」と言った。


同じようなことがまた夕方に繰り返された。
私が帰ってくると、お前は地面に膝をついて、ビー玉で遊んでいた。
ストッキングは膝のところが穴だらけになっていた。
お父さんはお前お家追い返し、友達の前で恥をかかせた。

 

「靴下は高いのだ。お前が自分で金を儲けて買うんだったら、もっと大切にするはずだ!」
これが、お父さんの口から出た言葉だから、我ながら情けない。


それから夜になってお父さんが書斎で新聞を読んでいる時、お前は悲しげな目つきをしておずおずと部屋に入ってきたね。
うるさそうに私が目を上げると、お前は、入り口のところで、ためらった。
「何の用だ」と私が怒鳴ると、お前は何も言わずに、さっと私のそばに駆け寄ってきた。


両の手を私の首に巻きつけて、私にキスした。
お前の小さな両腕には、神様が植え付けでくださった愛情がこもっていた。
どんなにないがしろにされても、

決して枯れることのない愛情だ。


やがてお前は、バタバタと足音を立てて、2階の部屋へ行ってしまった。

 

ところが、坊や、そのすぐ後で、お父さんは突然なんとも言えない不安に襲われ、手てにしていた新聞を思わず取り落としたのだ。


何という習慣に、お父さんは、取り憑かれていたのだろう!
叱ってばかりいる習慣。

 

まだほんの子供にすぎないお前に、お父さんは、何ということをしてきたのだろう!
決してお前を愛していないわけではない。
お父さんは、まだ年端も行かないお前に、無理なことを期待しすぎていたのだ。


お前を大人と同列に考えていたのだ。
お前の中には、善良な、立派な、真実なものがいっぱいある。


お前の優しい心根は、ちょうど山の向こうから広がってくるあけぼのを見るようだ。


お前がこのお父さんに飛びつき、お休みのキスをした時、そのことがお父さんにははっきり分かった。
他のことは問題ではない。


お父さんは、お前にはわびたくて、

こうしてひざまついているのだ。


お父さんとしては、これが、お前に対するせめてもの償いだ。

昼間こういうことを話しても、お前には分かるまい。


だが、あすからは、きっと、よいお父さんになってみせる。

 
おまえと仲よしになって、
いっしょに喜んだり悲しんだりしよう。

小言をいいたくなったら舌をかもう。
そして、おまえがまだ子供だということを常に忘れないようにしよう。

 
お父さんはおまえを一人前の人間とみなしていたようだ。

こうして、あどけない寝顔を見ていると、
やはりおまえはまだ赤ちゃんだ。

 
きのうも、お母さんに抱っこされて、
肩にもたれかかっていたではないか。


お父さんの注文が多すぎたのだ。

 

 

おわり